東京大学創薬機構 特任教授 小島宏建
教授 津本浩平
機構長 一條秀憲
創薬機構(「創薬オープンイノベーションセンター」より2015年4月改称)は生命現象の解明や難病克服など人類の健康増進への貢献を目標に、有用な研究ツール化合物や創薬シーズの探索(スクリーニング)のための23万種の低分子化合物を所蔵する化合物ライブラリーとスクリーニング設備を公的な大型創薬研究基盤として管理・運用しており、創薬アイデアなどを着想した熱意ある研究者に産学官の所属を問わず、化合物サンプルの提供支援とスクリーニングの総合的支援を行っています。ケミカルバイオロジー、農学分野など、創薬分野以外の研究者も支援していますので、お気軽にお問い合わせください。
化合物サンプルはマイクロプレートに分注して必要とされる研究者に無償提供しています。ただし、プレート代、送料等の実費はご負担いただいています。化合物サンプルの提供だけではスクリーニングできない方がほとんどですので、装置の貸与、試験方法の相談、技術講習会の開催などにより、初めての方でもスクリーニング研究に挑戦できるような環境を整えています。
さらに、独創的な着想にもかかわらず、費用面で躊躇される場合には100万円以内の研究費を委託研究費として交付したり、トライアル制度による初期の消耗品負担を軽減したりするなどの支援制度も用意しております。
このような取組で、当化合物ライブラリーのスクリーニングにより発見された化合物を腎臓病等の治療薬創製につながる候補物質(リード 化合物)として塩野義製薬株式会社へ導出した成功事例もあります。
高度化の取組としては、化合物ライブラリーをより好ましい構成とするために、利用者からの試験報告データを元に、様々な標的に対して非選択的に活性を示す化合物を除いたり、合成領域が合成した独自の化合物の収集や製薬企業独自の優良な化合物サンプルの寄託を受けたりしています。また、スクリーニングの方法論開発として、高速アッセイが難しかった糖転移酵素に汎用でき、なおかつ、各種リン酸化酵素への応用も可能な蛍光アッセイ法の開発1)や医科学研究所に実験室を構える津本浩平教授のグループでは物理化学的観点(熱力学、速度論)から化合物と標的タンパク質との結合挙動を解析し、特異的結合の鍵となる分子間相互作用の特性を物理化学的パラメータとして記述することで、リード化合物とすべき候補化合物を選別する方法論を開発しています2)。
1) Kumagai K, Kojima H, Okabe T, Nagano T: Development of a highly sensitive, high-throughput assay for glycosyltransferases using enzyme-coupled fluorescence detection. Anal. Biochem., 447, 146-155 (2014).
2) Kobe A, Caaveiro JM, Tashiro S, Kajihara D, Kikkawa M, Mitani T, Tsumoto K: Incorporation of rapid thermodynamic data in fragment-based drug discovery. J. Med. Chem., 56, 2155-2159 (2013).