理化学研究所ライブサイエンス技術基盤研究センター
機能性ゲノム解析部門ゲノムネットワーク解析支援施設長 近藤直人
理化学研究所の当施設は、機能ゲノミクス領域Aの代表機関として平成26年よりPDISに参加しています。分担機関である国立遺伝学研究所と協力して、創薬のためのゲノム・ゲノミクス解析を支援しています。支援における両組織の役割は次の様です:理研は、核酸抽出から配列解析までを、遺伝研はデータ解析を担当。高度化は両機関独立して行っています。
支援:領域Aは、遺伝子発現解析やDNAメチル化解析、DNA-タンパク質相互作用解析等のエピゲノム解析を中心にエキソーム等のゲノム配列解析まで幅広いDNA、RNA解析を支援として提供しています。支援範囲は、利用者の要望によりますが、解析相談から核酸抽出、ライブラリ調製、シーケンスまでとなっています(データ解析は、分担機関の遺伝研が担当)。昨年度は、領域A単独で16課題を支援しました。
機能ゲノミクス領域A以外にBもあります。領域Bは5機関あり、支援としてライブラリ作製までを担当しています。理研は、領域Bが調製したライブラリのシーケンスも行っています。この様に理研は、機能ゲノミクス領域の提供する支援ほぼ全てに関わっています。図に昨年度の機能ゲノミクス領域全体の支援内容を示しました。がん、神経系、再生医療、血液・免疫、代謝など、疾患の原因解明が支援の2/3を占めていました。
高度化:理研は、微量RNA-seq、微量転写開始点解析の開発ならびに領域Bが開発した微量ChIP-seqおよび微量濃縮メチル化解析技術の導入を進めています。理研で高度化を進めている2つのRNA解析技術について紹介します。
究極の微量RNA-seqともいうべき1細胞RNA-seqは機能ゲノミクス領域Bの3機関で支援と高度化がすすめられています。これとは異なり、私共の目指す微量RNA-seqは、数ng~数10ngのtotal RNAを出発材料とする方法です。1細胞解析が注目されていますが、このような数ngレベルのRNA-seqも依然としてニーズの高い解析です。微量化と同時に、従来の数100ng~数µgのtotal RNAから得られるRNA-seqデータと互換性の高い方法であることも目標にしています。3'末端にpolyA鎖を有するRNAを対象とする微量RNA-seqの開発は完了し、支援に提供可能です。現在は、3'末端側にpolyA鎖を持たないRNAを微量で解析する手法を開発中です。本手法の目的は、一部のncRNAの様なpolyA鎖を持たないRNAを含めて網羅的にトランスクリプトーム解析することです。
私共の所属する機能性ゲノム解析部門は、網羅的に転写開始点を解析する技術Cap Analysis of Gene Expression (CAGE)法を開発してきました。このCAGE法の微量化を目的として、技術開発を行っています。この開発においても、微量化と同時に従来法で得られたデータとの互換性の2つを重視しています。この開発のむつかしさは、ライブラリ調製時にPCR増幅を行わない点です。これによりPCRバイアスの無いデータが得られるからです。今年度内の完了を目指して、高度化を進めています。
私共、機能ゲノミクス解析領域A代表機関は、分担機関の遺伝研と協力して、創薬に繋がる研究の支援と支援に提供する技術の高度化を進めています。