A1-5 SPring-8構造ダイナミクス研究支援

ユニット名

構造解析ユニット

支援担当者

所属 ① 高輝度光科学研究センター
② 高輝度光科学研究センター
③ 理化学研究所 放射光科学研究センター
氏名 ① 長谷川 和也
② 馬場 清喜
③ 河野 能顕
AMED
事業
課題名 生命科学と創薬研究に向けた相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化
代表機関 理化学研究所 放射光科学研究センター
代表者 山本 雅貴

支援技術のキーワード

室温構造解析、構造多型、時分割構造解析、顕微分光

支援技術の概要

タンパク質の機能発現にともなう構造変化や構造多型などを明らかにすることを目的として以下の支援を行う。

  1. 室温構造解析
  2. 生理活性温度に近い温度での構造解析、湿度・温度等の外場変化にともなう構造変化の観察、湿度最適化による結晶品質の改善

  3. 構造多型解析
  4. 結晶毎の構造の違いからダイナミクス情報を取得

  5. 時分割構造解析
  6. ミリ秒より長い時間領域の構造変化を観察

1. 室温構造解析

X線結晶構造解析ではX線損傷低減のために100 Kの凍結状態で回折データ測定を行うことが一般的であるが、凍結状態と室温で異なる構造が得られることがあることも知られている。
SPring-8では室温で回折データ測定する手法としてHumidity and Glue (HAG)法を開発している[1]。本手法はポリマー(ポリビニルアルコール; PVA)で包埋した結晶に調湿気流を吹き付け、非凍結状態で回折データ測定を行う測定方法である。湿度に加えて温度も変えることが可能であり[2]、室温での構造解析のみならず、湿度・温度などの外場変化により誘起される構造変化を捉えることも可能である。湿度調整による結晶品質の改善にも利用され、ポリマーが抗凍結剤として働くため最適な湿度で結晶凍結を行う事もできる。
また、結晶中のタンパク質の状態を同定するために有効な可視・紫外顕微分光装置も開発している。本装置はHAG法を用いた室温測定と凍結結晶を用いた測定の両方に対応している。回折計上に設置可能であり、回折データ収集前後の結晶の状態を同定することができる。

2. 構造多型解析

SPring-8では、自動測定システムZOO[3]とデータ処理パイプラインKAMO[4]の開発により大量の結晶からの効率的なデータ収集やデータ処理を実現し、さらに自動構造解析を行うためのパイプラインNABEの開発も進んでいる。KAMOやNABEを用いて大量のデータを適切に分類(クラスタリング)して解析すると、同じ条件で得られた結晶であっても、結晶によって異なる構造(構造多型)が観測される場合がある。これはタンパク質が取り得る様々な状態を反映しており、そこからタンパク質のダイナミクス情報を抽出することが可能である。またこのようなクラスタリング解析を化合物をソーキングした結晶に適用すると、化合物の占有率の高いデータのみを抽出することで、化合物のより鮮明な電子密度を得ることもできる。

3. 時分割構造解析

SPring-8キャンパス内にあるX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAでは、多数の微小結晶にX線を照射してデータを取得するシリアルフェムト秒結晶構造解析を用いた時分割構造解析がなされている。SPring-8のビームラインにおいても、シリアル法を用いた時分割実験の立ち上げを進めており、準備が整い次第、SACLAと連携してミリ秒より長い時間領域をターゲットにした時分割構造解析の支援に提供する。

支援技術の利用例

1. 銅含有アミン酸化酵素(AGAO)の室温構造解析

タンパク質は周囲の環境(塩濃度、pH、温度など)により構造が変化して機能を発現する。環境による活性の違いは、ドメイン間の相互作用が変化することで起こるだけではなく、活性部位に局所的な構造変化が生じた場合でも起こる。この研究例では、HAG法による室温構造解析により土壌細菌由来AGAOの活性部位の構造が温度やpHによって変化することを明らかにしている[5]。

2. 構造多型の解析例

トリプシンのアポ型とベンザミジン(化合物)結合型のデータを回折強度の相関に基づくクラスタリングによって分類し、化合物結合型データのみのデータを取り出すことに成功している。

支援担当者の研究概要

長谷川 和也

SPring-8のタンパク質結晶解析ビームラインで使用しているデータ測定ソフトウェアBSSの開発、高速サンプルチェンジャーSPACE-IIの開発[6]など、ビームラインの自動化に携わってきた。また、高輝度微小ビームを用いた微小結晶からの室温データ測定方法の開発も行い[7]、現在それを発展させてSPring-8を用いた時分割構造解析の立ち上げを進めている。

馬場 清喜

放射光構造生物学におけるX線回折実験の手法開発として、非凍結結晶から多様な構造情報を得るためにHAG法および装置開発を進めており、顕微分光測定を組み合わせた測定システムの開発も行っている[1][2]。さらに、自動測定の共用ビームラインBL45XUにおける高性能化を進めている。

河野 能顕

顕微紫外可視吸収・ラマン分光装置と組み合わせた測定システムの開発などX線結晶構造解析実験の手法開発を行っている。また、BL32XUの高度化・維持管理を行っている。

参考文献

[1] Baba S, et al., Acta Cryst D69,1839-1849 (2013)
[2] Baba S, et al., J Appl Cryst 52, 699-705 (2019)
[3] Hirata K., et al., Acta Cryst D75, 1- 13 (2019)
[4] Yamashita K., et al., Acta Cryst D74, 441-449 (2018)
[5] Murakawa T., et al., Proc Natl Acad Sci USA 116, 135-140 (2019)
[6] Murakami H., et al., Acta Cryst D76, 155-165 (2020)
[7] Hasegawa K., et al., Acta Cryst D77, 300-312 (2021)

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