A13-1 膜タンパク質の発現生産、精製

ユニット名

構造解析ユニット

支援担当者

所属 ① 千葉大学 大学院理学研究院 膜タンパク質研究センター
② 理化学研究所 生命機能科学研究センター
氏名 ① 村田 武士
② 白水 美香子
AMED
事業
課題名 疾病関連膜タンパク質の生産および構造解析支援
代表機関 千葉大学
代表者 村田 武士

支援技術のキーワード

耐熱化変異体作製技術、迅速精製技術、結合化合物の探索・評価技術、大腸菌無細胞合成技術

支援技術の概要

構造解析ユニットで実施されるタンパク質試料の調製から構造機能解析の一連の研究のうち、特に疾病関連膜タンパク質の生産と構造解析の支援を行う。膜タンパク質は多くの疾病に関連するため、重要な創薬標的分子として知られているが、ヒト膜タンパク質は安定性(耐熱性)が低いため精製することが難しい場合が多く、創薬研究のボトルネックになっていた。千葉大では、長年にわたり膜タンパク質に焦点を当てた基礎研究を推進し、ST1:理論的耐熱化変異体作製技術、ST2:迅速精製技術、ST3:結合化合物探索・評価技術、ST4:機能性抗体作製技術、ST5:構造解析技術(KEKと共同)を開発した。一方、JAXAではST6:膜タンパク質の新規結晶化技術を、理研ではST7:タンパク質複合体の大腸菌無細胞合成技術を開発した。本事業では上記の支援技術(ST1-ST7)を広く外部研究者に公開し、実際に技術支援を行うことにより、創薬研究でボトルネックになっていた膜タンパク質の生産問題を解決し、日本の創薬研究とライフサイエンス研究の発展に貢献することを目的とする。

本支援メニュー(膜タンパク質の発現生産、精製)に該当するST1:理論的耐熱化変異体作製技術、ST2:迅速精製技術、ST3:結合化合物探索・評価技術、ST7:タンパク質複合体の大腸菌無細胞合成技術について以下に概要を記載する。それ以外の支援項目については別の支援メニューに記載する。

ST1:膜タンパク質の耐熱化変異体作製技術 担当:千葉大―疾病関連膜タンパク質として知られるGタンパク質共役型受容体(GPCR)・膜輸送体・膜チャネルの中で特にGPCRは耐熱性が低いため、精製することが難しい場合が多い。我々が開発したGPCRに対する耐熱化変異体予測法(特許第6359656号;PCT/JP2015/068277;J. Phys. Chem. B, 2016, 2017, 2018)とは、1つのアミノ酸置換に伴う生体膜のエントロピーの利得(損失)を精密な液体の統計力学理論と形態計測学的手法を統合した独自の方法論により計算し、耐熱化する1アミノ酸変異体を選別する方法である(図1)。本計算には標的GPCRの立体構造情報が必要であり、その詳細構造データがある場合は5割程度の的中率を誇るが、立体構造が不明の場合は的中率が0-20%まで低下してしまう。最近我々は理論計算と進化分子工学を融合したGPCRの耐熱化技術を確立した(論文投稿中)。これらの技術を使って、15種類のGPCRの耐熱化(5度以上)に成功し、大量生産が可能となっている。

ST2:膜タンパク質の迅速精製技術 担当:千葉大―Hisタグは連続する6~10個のヒスチジン残基で構成されており、タンパク質の精製目的で最も汎用されている。ニッケルやコバルトといった金属の配位したカラムによりアフィニティ精製が可能であるが、発現宿主由来のタンパク質を非特異的に吸着してしまうことや、目的タンパク質の機能的構造を破壊してしまう場合もある。特にヒト膜タンパク質は不安定なものが多く影響を受けやすい。我々はHisタグに対するモノクローナル抗体を複数作製し、その抗体カラムを作製してオンカラムで迅速(約1日)かつ高純度に膜タンパク質を精製するシステムを構築した(図2)。さらに、オンカラム中で迅速(約2日)かつ高効率にナノディスク化した膜タンパク質を精製するプロトコルを確立した(特願2022-091863)。この技術はGPCR・膜輸送体・膜チャネルのいずれにも適応可能である。

ST3:結合化合物の探索●評価技術 担当:千葉大―Biacore(表面プラスモン共鳴法を用いて分子間相互作用をリアルタイムに検出する装置)は精製タンパク質に結合する化合物のスクリーニングや結合評価に汎用されているが、標的分子が膜タンパク質の場合には「ナノディスク化すること」・「高親和性のタグ等が必要なこと」などの多くの制約がある。我々はナノディスク構造に高親和性かつ特異的に結合するモノクローナル抗体の作製し、Biacoreセンサーチップにこの抗体を固定化後、ナノディスク化した膜タンパク質をトラップして測定することで、化合物の結合評価に成功した(図3;特願2022-091842)。この方法では抗体を固定化したセンサーチップの再生が可能なため、結合化合物の評価ばかりでなく、ハイスループットな化合物スクリーニングも可能である。また、この抗ナノディスク抗体は、Biacoreでの使用ばかりでなく、ファージディスプレイやDNAコード化ライブラリー(DEL)などの各種スクリーニングシステムにも利用できる。

ST7:タンパク質複合体の大腸菌無細胞合成技術 担当:理研―我々は長年に渡り、大腸菌無細胞合成技術に改良を加え、抗体フラグメントに関しては酸化型・還元型グルタチオンの添加条件の最適化、膜タンパク質に関しては脂質・界面活性剤の種類・濃度の最適化によって大量生産に成功している(図4)。

支援技術の利用例

ST1:膜タンパク質の耐熱化変異体作製技術―支援依頼者の標的膜タンパク質の立体構造情報(未知ならばホモロジーモデルを作成)を使って、耐熱化予測計算を行う。必要に応じて、上記した進化分子工学的手法も用いて耐熱化変異体を同定する。

ST2:膜タンパク質の迅速精製技術―支援依頼者の標的膜タンパク質をHEK細胞系で発現させ、界面活性剤で可溶化後、本技術を用いて界面活性剤中での精製、もしくはナノディスク化を行う。必要に応じて抗体カラムの提供も行う。

ST3:結合化合物の探索・評価技術―支援依頼者の標的膜タンパク質と結合化合物との相互作用について本技術を用いて評価する。必要に応じて結合化合物のスクリーニングや抗ナノディスク抗体の提供も行う。

ST7:タンパク質複合体の大腸菌無細胞合成技術―抗体フラグメントの調製支援では、その抗体の可変領域の配列をもとに、Fab/Fv-claspなどの発現プラスミドを構築し、本技術を用いて調製する。膜タンパク質についても本技術を用いて合成する。

支援担当者の研究概要

補助事業代表者:千葉大学 村田 武士
<施設・設備・機器>代表者(村田)は「千葉大学大学院理学研究院附属・膜タンパク質研究センター」を令和3年10月に設立した。本センターに所属する教員3名、研究員2名、技術員5名が本事業に参画予定であり、支援・高度化を行うのに十分な人材が揃っている。また、村田の研究室から大学院生6名程度も本事業に参画予定である。膜タンパク質を発現・精製する設備や機器類、理論計算や構造解析するコンピューターなど、本事業に必要となる設備・機器は完備されている。ST4で使用するBiacoreはKEKの装置を使用する。
<技術>膜タンパク質研究を支援するための革新的な技術(ST1-ST5)が確立されており、十分な支援実施体制が整っている。
<これまでの支援実績等>
・AMED 創薬等支援技術基盤プラットフォーム(PDIS)「創薬ターゲットとして重要なヒト膜タンパク質の生産及び結晶化支援基盤」の分担者として、岡山大学、京都大学、自治医科大学、徳島大学、早稲田大学、千葉大学、化学品メーカー、製薬企業等から支援依頼を受け(支援件数:12件)、膜タンパク質の生産と結晶化およびX線結晶構造解析に関する技術支援を行なった(論文成果: Nature 2015ab, Science 2015, JBC 2016など)。
・AMED 創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「全自動大規模結晶化スクリーニングシステムを用いたX線結晶構造解析の支援と高度化」の分担者として、北海道大学、東北大学、新潟大学、東京大学、東京理科大学、京都大学、大阪大学、岡山大学、産業技術総合研究所、国立循環器病研究センター等から支援依頼を受け(支援件数:14件)、膜タンパク質の発現・精製・性状評価・結晶化・構造解析及び抗体作製に関する技術支援行った(論文成果:Nat. Chem. Biol. 2018, 2019, Nature 2021など)。
・AMED 創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「創薬等ライフサイエンス研究のための相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化」の分担者として、アクセリード社、アステラス製薬、小野薬品工業、第一三共ノバーレ、武田薬品工業の5社から支援依頼を受け、非競争領域である毒性(hERG)/動態(P-gp)ターゲットの発現・精製系を確立およびクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析支援を行なった(論文成果:Structure 2021など)。

補助事業分担者:理化学研究所 白水 美香子
<施設・設備・機器>分担者(白水)のチームに所属する技術系スタッフ4名が本事業に参画予定であり、支援・高度化を行うのに十分な人材が揃っている。また、タンパク質複合体を発現・精製するために本事業に必要となる設備・機器は完備されている。
<技術>タンパク質複合体の大腸菌無細胞合成技術(ST7)が確立されており、十分な支援実施体制が整っている。
<これまでの支援実績等>
・AMED 創薬等支援技術基盤プラットフォーム(PDIS)「無細胞系と細胞系の複合による高難度複合体・創薬関連タンパク質の合成・精製・結晶化パイプライン技術の高度化と支援」に2012-2014年の間、参加者として多くの大学・研究所等から支援依頼を受け、無細胞系と細胞系の複合によるタンパク質の合成・精製・結晶化に関する技術支援を行った(論文成果: Nature 2015など)。
・AMED 創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「統合的構造解析に向けた高難度複合体の生産支援と高度化」の代表者として、北海道大学、東北大学、東京大学、東京医科歯科大学、岡山大学、九州大学、感染症研究所、国立循環器病研究センター等から支援依頼を受け(支援件数:39件)、主にクライオ電顕解析に向けた高難度複合体の生産に関する技術支援を行った(論文成果:Science 2018, 2019, Mol. Cell 2019など)。

支援申請する