所属 |
① 理化学研究所 生命医科学研究センター ② 理化学研究所 生命医科学研究センター |
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氏名 |
① 桃沢 幸秀 ② 山本 一彦 |
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AMED 事業 |
課題名 | 生体試料を用いた大規模機能ゲノミクス解析支援及びヒト免疫機能評価基盤の高度化 |
代表機関 | 理化学研究所 | |
代表者 | 桃沢 幸秀 |
大規模機能ゲノミクス解析、シングルセルRNA-seq、バルクRNA-seq、ゲノムシーケンス解析、統合データ解析
実験計画から、サンプル受領、核酸抽出、ライブラリー調製、シーケンス、データ解析までの機能ゲノミクス解析について、プロセスごとにコンサルテーションを行いながら統合的に支援する。
<ライブラリー作製、シーケンス解析、統合データ解析>
①CAGE解析(転写開始点解析):理研で独自開発したCAGE法を用いて、5'端のCAP構造を有するRNA分⼦(mRNA, long non-coding RNA, enhancer RNAなど、non-poly(A) RNAも含む)を特異的に捉える技術。得られたデータからFASTQ、TSSデータを生成し、網羅的かつ定量的にプロモーターおよびエンハンサー活性ならびに遺伝子の転写開始点を測定し、遺伝子アノテーション、活性推定などの解析結果を提供する。また、各種細胞・組織から細胞質分画を取り除いて核分画を単離し、新たに合成中のRNA(新生RNA)が濃縮されている核不溶分画の抽出法が既に確立している。新生RNAにCAGE法を応用し、エンハンサーRNA(eRNA)と呼ばれるノンコーディングRNAの転写開始点を同定するNET-CAGE法を新規メニューとして提供する。
②シングルセルRNA解析:外部研究者等の目的に応じて、RamDA-seq、SMART-seq、3’ Gene Expression(10xGenomics社)の3種の方法によりシングルセルRNA解析の支援を実施する。
・RamDA-seq:理研で開発されたRT-RamDA法を用いて、1細胞毎の全トランスクリプトームシーケンス用のライブラリーを調製する。なお、ライブラリー調製には、市販のTn5 transposaseを用いた通常のRamDA-seqと低コスト化のために高度化で独自調製したTn5 transposaseを使用したin house RamDA-seqを提供する。得られたデータからFASTQ、Count、FPKM-TPMデータを生成し、網羅的かつ定量的にポリA型RNA、非ポリA型RNA、エンハンサーRNAを測定する。遺伝子アノテーション、遺伝子発現量などの解析結果を提供する。
・SMART-seq:SMART-seq2法を用いて、1細胞毎の全トランスクリプトーム解析を行う。得られたデータからFASTQ、Read Count、FPKM/TPMデータを生成し、網羅的かつ定量的にポリA型RNAを測定する。遺伝子アノテーション、遺伝子発現量などの解析結果を提供する。
・シングルセル遺伝子発現解析(10xGenomics):10xGenomics社Chromium iXを使用して、500~10,000細胞のシングルセルを用いたライブラリー調製を行う。これまで提供していたSingle Cell 5’/3’ Gene Expression Kitに加えて、最大2倍の遺伝子を検出することができるGEM-X Single Cell 5’/3’ Kitの支援も提供する。得られたデータからLoupe Browser用のloupeファイルとCell Rangerで出力したhtmlファイルを生成し、網羅的かつ定量的にポリA型5’/3’ RNAを測定する。遺伝子アノテーション、遺伝子発現量などの解析結果を提供する。
③バルクRNA解析:以下の3種の方法によりバルクRNA解析を実施する。実験デザインの相談から、ライブラリーの構築、シーケンス、データ解析、統計解析まで一貫して支援する
・RNA-seq:Ultra II RNA Library Prep Kit for Illumina(NEB社)を用いて、ストランド非特異的なcDNAライブラリーを調製する。rRNA除去またはpoly(A) mRNA濃縮と併用することで、10 ngから1µgまでのTotal RNAから高品質なライブラリーを調製する。得られたデータからFASTQ、Read Count、FPKM/TPMデータを生成し、網羅的かつ定量的にポリA型RNAを測定する。遺伝子アノテーション、遺伝子発現量などの解析結果を提供する。
・3' mRNA-Seq:QuantSeq 3' mRNA-Seq Library Prep Kit(Lexogen社)を用いて、poly(A) mRNAの3'末端近郊配列をもつcDNAライブラリーを調製する。得られたデータからFASTQ、Read Count、FPKM/TPMデータを生成し、網羅的かつ定量的にポリA型3’ RNAを測定する。そして、遺伝子アノテーション、遺伝子発現量などの解析結果を提供する。
・RamDA-seq: 1細胞の全トランスクリプトームシーケンス⽤に開発されたRamDA-seqの技術を用いて希少細胞の研究や微小環境内の細胞の研究にフォーカスした解析を行う。得られたデータからFASTQ、Count、FPKM-TPMデータを⽣成し、網羅的かつ定量的にポリA型RNA、非ポリA型RNA、エンハンサーRNAを測定する。遺伝⼦アノテーション、遺伝⼦発現量などの解析結果を提供する。
④ターゲットシーケンス解析:
・任意の数十遺伝子対象:理研で独⾃開発されたmultiplex PCRを⽤いた⼿法により、ゲノムDNAを材料として、特定の遺伝⼦(領域)に絞って多数検体のシーケンス解析を⾏う。実験デザインのコンサルテーションから、ライブラリーの調製、シーケンス、データ解析、統計解析まで⼀貫して⽀援する。
・クローン性造血の15遺伝子対象:クローン性造血の15遺伝子対象︓近年、加齢に伴い⾎液中にsomaticバリアントが集積するクローン性造⾎(Clonal hematopoiesis of indeterminate potential:CHIP)が注目を集めており、新規メニューとしてCHIPの対象となる約15遺伝⼦に対するターゲットシーケンス解析を提供する。実験デザインのコンサルテーションから、ライブラリーの調製、シーケンス、データ解析、統計解析まで⼀貫して⽀援する。
・T細胞受容体レパトア解析: 上記のmultiplex PCR のシステムをT細胞受容体領域に適応したT細胞受容体レパトア解析を行う。実験デザインのコンサルテーションから、ライブラリーの調製、シーケンス、データ解析まで⼀貫して⽀援する。
・全エクソーム解析(Whole Exome Sequencing:WES): Twist BioscienceのTwist Exome 2.0キットを用いて、遺伝性疾患やがんの研究に適した高精度なエクソーム解析を提供する。実験デザインのコンサルテーションから、ライブラリーの調製、シーケンス、データ解析、統計解析まで⼀貫して⽀援する。
⑤全ゲノムシーケンス解析:ゲノムDNAを材料として全ゲノムシーケンスを実施する。実験デザインのコンサルテーションから、ライブラリー調製、シークエンス解析、バリアントリストの作成や疾患やフェノタイプとの関連解析までを一貫して担当する。
⑥各種免疫細胞の解析:
・⾼機能セルソーターを⽤いた分画: 従来の免疫細胞ソーター技術をさらに⾼度化した詳細なサブセットの分離法を確⽴しており、共同研究レベルでの⽀援として提供する。また、この新規技術で分離されたサブセットに対する機能ゲノミクス解析についても検討する。
・次世代シーケンサー(NGS)を用いたDNA/RNAの大規模解析:上記の免疫細胞について、通常よりも多くの処理が必要なケースへの対応を行う。CAGEを対象とし、解析に必要な細胞数やRNA量については、依頼者とのコンサルティングにより決定する。依頼者より細胞が提供される場合はRNA精製についても対応する。
・転写因子結合部位マッピングと遺伝的変異解析:上記の免疫細胞サブセットを用いて、対象とする転写因子結合部位をベクター内に組み込み、様々な細胞種内での転写の活性化や抑制について解析を行う。結合部位の配列決定と、対象とする細胞種はコンサルティングにより決定する。
・免疫サブセットでのプロテオーム解析: 10万細胞以上取得可能な免疫細胞サブセットについて、理研が所有する超高速クロマトグラフ質量分析計(Orbitrap Exploris 480MS & Ultimate 3000 RSLCnanoシステム)を用いて、プロテオーム解析を実施する。対象とする細胞種の取得については、上記でセルソーターを用いて取得された細胞数をもとに、コンサルティングにより決定する。
⑦ゲノム編集実験:大規模ゲノム研究で同定されたヒト疾患に関与する遺伝的変異をゲノム編集実験で目的細胞内に導入し、その分子メカニズム(エピゲノムやトランスクリプトームの変化など)を独自の技術で評価する。
⑧統合データ解析:上記の機能ゲノミクス解析を対象として、複数のゲノミクス解析結果を統合的に解析するマルチゲノミクス解析を⽀援する。特に、RNAとゲノム変異や多変量解析等の異なる⼿法に基づくデータの統合解析を⽀援するとともに、ターゲットの絞り込み、各種統計⼿法を⽤いた検証等多⾯的な解析⽀援を⾏う。また、⽀援先⾃体のデータ解析を可能とするために、様々なツールの提供および解析⼿法に関するコンサルテーションを⾏い、データ解析技術の展開も併せて⾏う。
10万人以上を対象としたBRCA1/2遺伝子の14がん種を横断的解析
-東アジアに多い3がん種へのゲノム医療の可能性-
理研が独自に開発したターゲットシークエンス法により、バイオバンク・ジャパンが保有している日本人集団における14種のがんについて、がん患者とその対照群の合計10万人以上を対象とした世界最大規模のがん種横断的ゲノム解析を行った。その結果、BRCA1/2遺伝子は既に関連が知られている乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がんの4がん種に加えて、東アジアに多い胃がん、食道がん、胆道がんの3がん種の疾患リスクを高めることを発見した。この結果は、BRCA1/2遺伝子に病的バリアントを持つ患者に対して、既知の4がん種だけでなく新たに同定した3がん種についても、早期発見スクリーニングの実施や、PARP阻害剤の治療効果が期待できることを示した。(Momozawa Y et al. JAMA Oncol.2022)
遺伝要因がピロリ菌感染の胃がんリスクを高めることを解明
-ピロリ菌除菌によりその高まったリスクを低減できる可能性-
前述のターゲットシークエンス法により、バイオバンク・ジャパン・愛知県がんセンター病院疫学研究(HERPACC)の胃がん約11,000名と非がん対照群約44,000名に対して遺伝性腫瘍関連遺伝子27個に対して大規模ゲノム解析を行った。その結果、BRCA1/2遺伝子に加え、7個の遺伝子が胃がんリスクと関連しており、遺伝子毎に臨床的特徴が大きく異なっていることを明らかにした。更に、同定した遺伝子群の中の相同組換え修復機能に関わる遺伝子がピロリ菌感染と交互作用を伴い胃がんリスクを大きく上昇させる現象を発見した。相同組換え修復機能に関わる遺伝子に病的バリアントを持つ人はより一層ピロリ菌感染の評価・除菌を考慮することが重要であることを示唆するものである。これらの結果を通じて、胃がんのメカニズムの解明および個別化リスク低減策などが期待できることを示した。(Usui Y et al., NEJM, 2023)
ヒト食道扁平上皮癌(ESCC)における化学療法剤抵抗性機構の解明
この研究では、食道扁平上皮癌(ESCC)の化学療法耐性の特徴を解明するために、患者由来のオルガノイドライブラリ(ESCCO)を構築した。24名のESCC患者の腫瘍組織から作成されたESCCOは、元の腫瘍の遺伝子変異や腫瘍形成能を忠実に再現し、シスプラチンや5-フルオロウラシル(5-FU)に対する反応性を評価するのに適している。特に、耐性を示したESCCOは抗酸化ストレス応答経路の遺伝子発現が高く、クロマチンのアクセシビリティが増加していた。これらの遺伝子は、病理標本における耐性ESCCの識別に有用なバイオマーカーとなる可能性がある。さらに、薬剤スクリーニングの結果、フェドラチニブが耐性ESCCOに対して細胞死を誘導することが判明し、新たな治療戦略の開発に貢献することが期待される。この研究は、ESCCの再発を防ぐための重要な知見を提供する。(Nakagawa S et al., Communications biology, 2025)
ステロイドとトポイソメラーゼII阻害剤の相乗効果によるがん抑制メカニズムの解明
この研究では、ステロイドによる転写調節がトポイソメラーゼII阻害剤と相乗的にDNA二重鎖切断(DSB)を形成するメカニズムを解明した。特に、メドロキシプロゲステロン酢酸(MPA)がエトポシド(ETP)と組み合わせることで、腫瘍細胞におけるDSBの増加を促進し、G2/M期での細胞周期停止を引き起こすことが確認された。この効果はDSB修復の阻害ではなく、ETPによるTop2-DNA共有結合複合体の形成増加によるものであることが示された。さらに、DSBの形成がプロモーター領域付近で促進されることが判明し、MPAの転写調節がこのメカニズムに関与している可能性が示唆された。この知見は、ステロイドとTop2阻害剤の併用療法が新たな抗がん戦略として有望であることを示している。(Zhao Y et al., Communications biology, 2025)
支援に必要とされる要素技術とデータ解析の開発(高度化)を行う。大規模機能ゲノミクス解析支援に係るDNA/RNA 解析技術の高度化に加え、ゲノム研究を機能ゲノミクス研究に結び付ける方法論の確立を目指し「ヒト免疫機能評価」研究を対象領域とした高度化を実施する。機能ゲノミクス分野の高度化では、支援として多く利用が見込まれるDNA/RNA 解析技術を選択し、技術開発及びメニュー化を目指すとともに、当該分野における新たな技術開発の動向に応じて、新規技術の⾼度化について企画・検討する。ヒト免疫機能評価研究における高度化として、ヒト免疫システムを構成する多様な免疫担当細胞サブセットの機能解析の進歩を目指す。
大規模機能ゲノミクス解析支援に係るDNA/RNA技術の高度化
免疫細胞のサブセット解析と遺伝的変異との関連付けを目的としたDNA/RNAを中心とした多層的な機能分子の解析技術の高度化
※高度化課題の社会への普及・実用化に向けた取り組みとして、技術開発を活用した共同(連携)研究を推進する。