所属 | ① 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 | |
---|---|---|
氏名 | ① 三浦 史仁 | |
AMED 事業 |
課題名 | メチロームおよび多重エピゲノム解析の支援 |
代表機関 | 東京大学 | |
代表者 | 三浦 史仁 |
血中セルフリーDNA、1本鎖DNAリガーゼ
血中セルフリーDNA(cfDNA)は低侵襲なバイオマーカーとして近年注目を集めている。cfDNAの中でもヌクレオソームサイズの140-160塩基対のDNAフラグメント(nucleosome-size cfDNA:nscfDNA)はよく研究されているが、このほかにも血中には50塩基程度の1本鎖DNA(ultra-short cell-free DNA:uscfDNA)が大量に存在することが見いだされている(文献1)。最近になって、これらnscfDNAとuscfDNAの血中存在量や存在比は被験者の健康状態に依存して変化することがわかってきた。血中cfDNAの挙動を理解するには、これまでのようにnscfDNAのみを分析するよりは、uscfDNAとnscfDNAの双方を一体的に調べる方が良いのかもしれない。しかし、uscfDNAは1本鎖であるため、従来の2本鎖DNAのみに対応したプロトコールを用いてもシークエンシングライブラリーを調製することができない。cfDNA全体を分析するためには1本鎖DNAも含めて全てのサンプル中のDNAをライブラリー化することが可能な技術が必要となるのである。また、uscfDNAは汎用されているcfDNA精製キットでは再現性良く回収することが出来ないこともわかっている。nscfDNAとuscfDNAを同時に分析するためには、そのことに適したcfDNAの精製法を用いる必要がある(文献1)。
当グループはメチローム解析技術の開発過程で1本鎖DNA同士を高効率に連結することが可能な1本鎖DNAリガーゼ(single-strand DNA ligase:SDL)を同定した(文献2)。この酵素をもう一つの独自開発技術であるVaccinia virus topoisomerase I(TOPO)によるアダプター連結技術と組みあわせることにより、1本鎖DNAから高効率にシークエンシングライブラリーを調製することが可能なSDL-TOPO法を開発することに成功している(文献2)。SDL-TOPO法はさまざまなDNAの分析に利用可能であるが、中でもcfDNAの分析では血中に存在する全てのDNA断片をライブラリー化することが可能である。そこでcfDNAの分析を希望する国内の研究者に対してこの技術を通じたcfDNAに特化した支援を開始することにした。
- Hisano O. et al., BMC Biology, 2021, 19, 225
- Miura F. et al., Nucleic Acids Research, 2025, 53, gkaf054
0)コンサルティング
1)血清・血漿の受領
2)cfDNAの精製
3)SDL-TOPO法実施
4)ライブラリーのクオリティチェック(リアルタイムPCR、電気泳動)
5)配列決定機関へのライブラリー送付(1~2ヶ月間)
6)配列データの受け取り、1次解析
7)解析結果報告
8)追加解析についての相談等
当グループは、これまで培ってきたメチローム解析技術を基盤として、多重エピゲノム解析の実現を目指したさまざまな開発を進めている。そういった技術の1つとして特定の短い塩基配列を特異的に認識してメチル化するMTaseの開発がある。例えば、CCジヌクレオチドを認識するCCMTはエピゲノム解析のプローブとして有望である。このほかにも複数のMTaseを開発して組み合わせることにより、1つのDNA分子上に複数のエピゲノム情報を書き込む多重エピゲノム解析を実現することが可能となるだろう。このような多重エピゲノム計測技術を組織切片中の特定の細胞集団に適用して、そのエピジェネティックな特性を明らかにしていくことが、このグループが目指す技術開発のゴールである。