所属 | ① 長崎大学 先端創薬イノベーションセンター | |
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氏名 | ① 武田 弘資 | |
AMED 事業 |
課題名 | 海洋微生物抽出物ライブラリーを活用した中分子創薬の支援と高度化 |
代表機関 | 長崎大学 | |
代表者 | 武田 弘資 |
天然化合物、中分子、海洋微生物、化合物スクリーニング
・海洋微生物抽出物ライブラリーの提供ならびにスクリーニング支援:長崎県内で収集した海洋微生物より調製した抽出物のライブラリーを提供し、そのスクリーニングを支援する。
・同ライブラリーから得られたヒット抽出物からの活性化合物の単離・同定:スクリーニングでヒットした抽出物を大量に調製し、活性を示す化合物の単離・同定を行う。
・長崎大学オリジナル中分子化合物ライブラリーの提供ならびにスクリーニング支援:長崎大学の有機化学系研究室より収集した中分子化合物のライブラリーを提供し、そのスクリーニングを支援する。
・スクリーニング系(アッセイ系)構築支援:必要に応じてスクリーニング系(アッセイ系)の構築を支援する。
・新規の構造を持つ化合物の取得を目指した創薬スクリーニング
・中分子化合物の取得を目指した創薬スクリーニング
・ハイスループット化の難しいアッセイ系での創薬スクリーニング
長崎大学では、長崎県の豊富な海洋資源を創薬に活用することを目的に海洋微生物抽出物ライブラリーの構築を進めてきた。我が国で最も島嶼の多い長崎県は、本土側にも複雑な海岸線を多く有し、その総延長は北海道についで全国第2位である。それは海洋生物の多様性が高いことを物語っており、広いケミカルスペースを持つ天然化合物の源泉が豊富に存在することを意味している。
各地から収集してきた様々な海洋動物や海藻などのサンプルを細断し、海水寒天培地に塗布することで、サンプルに付着したり共生したりしている様々な微生物を比較的容易に単離することができる。長崎大学では、過去2度(平成8~11年度、平成14~15年度)にわたって県内各地で海洋微生物の大規模なサンプリングを行い、その際に単離された18,000種類を越える微生物株が現在も保存されている。まずはその保存株を順次、再培養して新規保存株を作製する一方、新たな微生物の収集活動も行って新規保存株の拡充を図っている。
各微生物株からの抽出物の調製については、いくつかの方法で調製した抽出物を複数の創薬スクリーニング系で評価した結果、もっとも有効性および汎用性が高いと思われる方法を決定した。2022年3月末までに、約1,800株の新たな微生物ストックを作製し、約1,100種の抽出物を調製した。本支援ではそのうちの640種の抽出物を96穴プレート8枚に分注したものを支援に供するが、今後もライブラリーの拡充を進めていく予定である。
本ライブラリーを用いたスクリーニングでは、通常の化合物ライブラリーのスクリーニングとは異なり、目的の活性を有する化合物を直接得ることはできず、サンプルごとに微生物の再培養や大量培養およびその後の抽出物の調製が何度か必要になり、さらに最終段階として抽出物からの活性化合物の単離・同定が必要となる。そのワークフローは次の通りである。
① 1次ヒット抽出物が得られた場合、追加のサンプル(スクリーニング用サンプルと同一ロット)を使って再現性と濃度依存性を確認する。
② その確認が済んだサンプルについては、再度、スクリーニング用サンプルと同じ方法で培養、調製を行い、そのサンプル(再調製サンプル)でも活性が維持されていることを確認する。
③ さらにそれでも活性が維持されていた場合は、中規模培養サンプル(培養液 1.6リットルより調製)での活性確認を経て、大量培養(培養液 20リットル程度)ならびに抽出物の大量調製を行い、その活性を確認する。
④ 大量調製サンプルからの活性化合物の単離・同定に進める。
本ライブラリーの特徴の一つは、昨今の創薬で求められている、いわゆる中分子を豊富に含んでいることで、今後の中分子創薬における基盤となることが期待される。もう一つの特徴は、一つ一つのサンプルが多種多様な化合物を含んでいるため、スクリーニングに供するサンプル数自体は少なくても結果的に多くの化合物を効率良くスクリーニングすることになり、比較的スループット性の低いアッセイ系でもヒットを得られる可能性があることである。特にアカデミア創薬に多い、細胞をベースとしたアッセイ系などでも比較的気軽に創薬スクリーニングを行えるため、アカデミアにおける創薬研究の裾野を広げることにつながると考えられる。一方で、ヒットした抽出物から実際に活性を示す化合物を単離・同定する必要があり、その過程に多くの時間と労力が求められる点が難点である。しかし、その点については今後さらに技術向上と効率化を目指すことで克服していきたいと考えている。
本支援では、海洋微生物抽出物ライブラリーに加えて、構造を決定済みの中分子化合物ライブラリーの提供も行う。こちらのライブラリーは、長崎大学内の薬学部、医学部、工学部、環境科学部などの有機化学系研究室が保有している種々の合成化合物のうち中分子に相当するものを収集したもので、微生物培養や化合物同定などで時間のかかる抽出物ライブラリーを用いたスクリーニングと上手く組み合わせていくことで効率的な中分子創薬の支援が可能となることが期待される。現在は160化合物であるが、こちらについても今後拡充を進めていく予定である。