所属 | ① 佐賀大学 農学部 | |
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氏名 | ① 辻田 忠志 | |
AMED 事業 |
課題名 | ゲノム・オミックス・タンパク質構造情報を活用したアカデミア発の創薬支援 |
代表機関 | 東北大学 | |
代表者 | 山本 雅之 |
レポーター構築、センサータンパク質、培養細胞スクリーニング
新たな分子メカニズムを基盤としたスクリーニング系のうち、培養細胞を活用したハイスループットスクリーニングを実現するまで、技術支援する。スクリーニングを実現するための培養細胞の選択、可視化するためのレポータータンパク質構築の選抜に関する情報提供を実施する。また、これまで構築してきた、抗酸化能や、抗低酸素ストレスを誘導できる物質スクリーニングを可能とするレポーター培養細胞等を提供し、支援に活用する。
・培養細胞を用いた、高感度スクリーニング系の構築とHTSへの導入支援。
・新規開発した食品成分が持つ抗酸化および抗低酸素能力の比較検討。
・抗酸化応答転写因子Nrf2の抑制によるがん成長抑制
Keap1-Nrf2系は酸化ストレス、いわゆる求核性物質の刺激に応答して、抗酸化に関与する酵素群を統一的に誘導できる機構である。私たちは、Keap1に変異を持つヒト肺がん細胞株A549にNrf2の活性をモニターするレポーター構築を導入して、恒常的に安定化しているNrf2を阻害する化合物のスクリーニングを実施した。その結果、常山アジサイに含まれるフェブリフジンが、効果的にNrf2の転写活性を抑制することを見出した。フェブリフジンの副作用を抑えて、薬効をあげたハロフジノンはさらに効率的にNrf2経路を阻害できることを明らかとしている。この効果はプロリルtRNA合成酵素を阻害にあり、プロリンの過剰投与でキャンセルされることも明らかとした。ハロフジノンによってプロリンが欠乏した状態になると、細胞はアミノ酸欠乏状態に陥り、新規のタンパク質合成が低下する。ここにシスプラチンを加えて新規の転写を阻害すると、Nrf2が安定化して、抗がん剤に耐性があるがん細胞も退縮へ導けることを、担がんモデルマウスで明らかとした。
Tsuchida T, Tsujita T, Hayashi M, Ojima A, Keleku-Lukwete N, Katsuoka F, Otsuki A, Kikuchi H, Oshima Y, Suzuki M, Yamamoto M. Halofuginone enhances the chemo-sensitivity of cancer cells by suppressing NRF2 accumulation. Free Radic Biol Med 103, 236-247 (2017)
・抗酸化応答を抑制する転写因子Nrf1を活性化する化合物の開発
転写因子Nrf1はNrf2のカウンターパートとして早期に発見されていたが、その機能は長い間不明だった。最近ではNrf1がタンパク質品質管理に重要な役割を果たすプロテアソームの構成員因子の多くを発現誘導できることから、注目を集めている転写因子である。不良タンパク質の蓄積は、がんや神経変性疾患、脂肪肝など多くの病変に関係することが知られている。一方で、Nrf1の活性化を指標とした標的遺伝子は長い間明確ではなく、あったとしても、Nrf1過剰発現でもさほど発現上昇しないことから、HTSを困難としていた。そこで私たちは、Nrf1が常に分解制御を受ける特性を利用して、Nrf1とルシフェラーゼタンパク質を融合したプローブを作出して、培養細胞に導入したものをNrf1の活性化(安定化)指標として利用できるレポーター細胞を作出した。東京大学創薬機構から提供された化合物ライブラリーをスクリーニングすることで、T1化合物を見出し、最適化ののちT1-20がもっともNrf1を安定化させる能力が高いことを明確にした。
Tsujita T, Baird L, Furusawa Y, Katsuoka F, Hou Y, Gotoh S, Kawaguchi S-i, and Yamamoto M. Discovery of an NRF1-specific inducer from a large-scale chemical library using a direct NRF1-protein monitoring system. Genes Cells 20, 563-577 (2015)
・低酸素防御タンパク質を誘導できる新規骨格を持つ化合物PyrzAの開発
低酸素に対する応答機構は、多くの場合不必要に思われるが、実は組織局所では常に発生しており、このストレスを防御することで、虚血性疾患の予防に活用できることが明らかとなっていた。低酸素ストレスはPHD―HIF系によって酸素存在量の低下を感知する機構が中心的な役割を果たす。HIFは統一的に低酸素防御タンパク質を誘導できる転写因子だが、低酸素に暴露する必要がある。そこで、PHD-HIFのタンパク質タンパク質結合(PPI)を阻害する化合物によってHIFを低酸素に暴露せずに誘導できる化合物が多く創出されている。しかし、これらのほとんどの化合物には問題点があって、ケトグルタル酸の構造構造を持つ。すなわち、ケトグルタル酸を補酵素として使用する酵素にも阻害効果を示してしまう可能性がある。そこで、私たちは、新規の骨格を持つPHD-HIF PPI阻害剤PyrzAを大規模化合物スクリーニングにより見出し、構造活性相関を通し活性を高めたPyrzA-50を開発した。
Sonoda K, Bogahawaththa S, Katayama A, Ujike A, Kuroki S, Kitagawa N, Hirotsuru K, Suzuki N, Miyata T, Kawaguchi S-i, and Tsujita T. Prolyl Hydroxylase Domain Protein Inhibitor Not Harboring a 2-Oxoglutarate Scaffold Protects against Hypoxic Stress. ACS Pharmacol Transl Sci 5, 362-372 (2022)
Kawaguchi S-i, Gonda Y, Yamamoto T, Sato Y, Shinohara H, Kobiki Y, Ichimura A, Dan T, Sonoda M, Miyata T, Ogawa A and Tsujita T. Furan- and thiophene-2-carbonyl amino acid derivatives activate hypoxia-inducible factor via inhibition of factor inhibiting hypoxia-inducible factor-1. Molecules 23, 885 (2018)
Tsujita T, Kawaguchi S-i, Dan T, Baird L, Miyata T, and Yamamoto M*. Sensitive hypoxia reporter system for high through put screening. Tohoku J Exp Med 235, 151-159 (2015)